Over Love act3-3

「・・・・・・」

瞳を見張る総一郎に再びはっきりと宣言する。

「俺に・・皓を・・・・殺らせて下さい。・・・」

満足げに息をついたのは総一郎だ。

「良く決意をしてくれた・・・・魁。・・・それでこそ私の息子だ。」

再び総一郎が軽く手を挙げると、黒づくめの男達は何事もなかったように、魁から離れると総一郎の座する左右に姿勢を正しクした後で立つ。
涼しげな顔で・・・

急激に解放されたからか、身内の節々に鈍い痛みはあったが、それを自ら無視する形で姿勢をただした。

「言わずとも一番分かっているだろうが・・念の為だ。皓の資料を持って行くがいい。・・・」

総一郎は引き出しより2冊分のクリアファイルを取り出すと左手の黒づくめの男に向け差し出していく・・
男は軽く一礼し恭しくそのファイルを受け取ると魁の傍により直に手渡した。

「・・・・・?・・・」

二冊を渡され困惑する魁に、どこに居たのか闇からJokerこと聖が闇の中から姿を現した。
長身で人好きのする顔をしている・・・優しげな雰囲気を醸し出しながら・・・

「一冊は皓の資料。・・もう一人は神崎 瑠伊って子の資料だ。可愛い子だよ。」
「皓は必ず、その神崎という娘にに接触してくる。そこでお前は娘を護衛し皓を殺すのだ。・・・」

総一郎が聖の言葉に付け加えていく・・・

「この女を?・・・」
(何故・・・・しかも護衛?・・)

投げかけたい質問はあるが、それは知り得る必要のない情報だからこそ与えられることはない。・・否・・・知り得てはいけないのだろう。
そうずっと理解してきた。今更だ・・・

「話は以上だ。今回お前にはサポートをつけることにした。」

疑問を投げかけようとした時、総一郎の言葉により遮られてしまった。

「あくまでも、サポートだから・・・俺の事はそんなに気にしなくていい。」

ひらひらと手を振り親しみを込めた笑顔で近づいてくる。笑顔の下に死神を隠しもつ男・・・・

「改めまして・・・・まぁ、宜しく頼むよ・・・」

差し出された手を魁は視線をそらし受け流した。

(サポート?・・笑わせてくれる!・・・監視の間違いだろう?)

魁は冷静に分析していた。万が一・・気が変わり皓を見逃すような事が
あれば、二人を殺すよう命じられているのだろう・・

総帥からすれば、どうせ俺達は駒の一つに過ぎない・・・

「詳細は聖が知っている。聖から聞くといい。今回は短期戦という訳にはいくまい。くれぐれも油断するな・・」

総一郎はそう短く言葉を切った。落ち着いた冷徹な声が辺りに響いた。

「さーて!今回色々と下準備が必要でね。時間が惜しい。では・・総帥
・・大事な息子殿をお預かり致します。・・・」

軽やかに、まるでマジシャンが目前に居る客に挨拶をするかのように、恭しく挨拶をすると、魁の方へ向き直り不敵に微笑んだ。

「さぁ・・・行こうか?・・」
「・・・・・・。」

魁は無言のまま、聖の後へと続き部屋を出た。

「!?・・・総帥!!」

右側の男が総一郎の左胸を見て小さく呻いた。
高級ブランドスーツの胸ポケットには、いつしか深紅のバラが飾られていた。

「いつの間に!?」

そう・・そのバラはジョーカーとあだ名された聖こその技である。もしも・・バラが鋭く光るナイフであったなら・・・

「・・・喰えん男よ・・・」

不敵に笑う総一郎の声が部屋に響いていく・・

「しかし・・・宜しいので?・・」

遠慮がちに右側の男が二人が去って行ったドアの方向を見やり囁いた。

「あの者達を、組ませるのは危険かと・・・」

左側の男も右側同様に眉を潜め進言していた。
二人共に総帥の身を案じての事だった・・

「構わん・・・・いざとなれば消し去るまで・・」

凍てつく程の冷たい響きのある声で呟いた・・・
動じることのない正に総帥の名の元に座する彼の自信は揺らぎ一つない。

『陽炎』の総帥・・・東山 総一郎は、二人が出て行ったドアを静かに見やり冷笑するのだった。



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Over Love act3-2

総一郎は、声も出せぬ魁に痺れを切らし魁の両脇に立つ黒づくめの男達を見た。

「皓に関する事は何も・・本部に戻る前、彼に接触してきた人物が居ましたが・・やはり無関係のようです。連絡を取り合っていないというのも事実かと・・」

黒づくめの中でも代表格に当たる人物が口火を開く。
無表情の上に抑揚のない声が無機質な部屋に響く・・

「ふむ・・・」

その報告を受け総一郎は軽く右手を挙げて見せた。

瞬間・・・

魁の右側に立つ男が改めて魁の腕を捩り上げ身動きのとれぬようはがい締めにしていく・・

「っ・・・!!」

苦痛に歪む魁の額からは、ジワリと汗が滲んでくるが決して苦痛の叫び声が出さず喉の奥へと押しやった。
一方、左側の男は黒いスーツの胸内から黒く・・そして鈍く光る銃を取り出すと、素早く魁の側頭部に銃口を押しつけていた。
冷たい銃口が、尚強く押し当てられたが、魁は騒ぎ立てる事も声をたてる事もしない・・

カチャリ・・・

小さい音が微かに響く・・・安全弁が外されたのだ。これでいつでも発砲が可能だ。少し指先を動かせばすぐ済む。

それでも魁は眉一つ動かさず総一郎を見上げていった・・・

少しずつではあったが、副作用が解けてきた証拠だ。

「魁・・『陽炎』での規律は知っているよな?・・私は裏切ったという事は、死を持って償って貰う・・」

深く沈んだ声は、どこかしら怒りを含んでいた。
静かな・・闇の淵の怒り・・・

「決まりごとは守らねばならん・・・そうでなければ秩序は保てぬ。」
「・・・・俺・・・に・・・皓を・・・・」

掠れた声でうわ言のように呟いていた。
皓が・・・兄が裏切ったと聞かされた時点でそれは魁が予測していた事だった・・

「そうだ・・・。お前に命を下す。・皓を殺せ・・出来るか?・・」

密やかに。
感情のない冷たい声が問うてくる・・

裏切り者には死を・・
試されているのだ。たった一人の唯一の肉親を殺せと・・殺さねば・・

グィッ

側頭部に押しつけられた冷たい銃口が再び強く押し付けられる。

(皓を・・・殺せ・・・・)

確かに色々な知識を与えられてきた。が・・そればかりではない。
世界に名だたる大企業の会長の養子だ。例え養子だとしてもバックについている人物が、他の企業とはあまりにも規模が違い過ぎる。
その為何かと優遇されることが多かった。
本人が望んでなくともだ・・だが・・・

(本当の自由が欲しいのに・・・)

このまま死んでいくのもいいのかもしれない・・そうすればあらゆる束縛から解放される・・

死は解放・・

「唯一の肉親は殺せんか?・・furious wolf(フュリアス ウルフ[熾烈な狼])とあだ名されたお前ほどの者が何を躊躇う?・・」

嘲りの入り混じった低い声が部屋に響く。

「生きたくないのか?・・」

総一郎の声と、ほぼ同時と言っていい。
声が重なりあう。
バリトンの心地よく響く甘い声・・

声の主は見知った男の声だった。あの携帯電話に確認の電話をよこした相手・・

闇の組織『陽炎』の中では皓についで、No2を誇る。
通り名は聖(せい)。
良く殺しに手品に使う特殊加工された小道具を使ったりするので、Joker(ジョーカー)とも呼ばれた男だ。

「ここでお前は死ぬのか?・・無駄死にだな・・・」

冷笑と共に発せられた言葉に魁は見知らぬ少年の言葉を思い出していた。
『家族が心配してるぞ!!・・』

(違うっ!!兄さんが裏切ったのは組織じゃない!・・一番・・裏切ったのは・・・・・)

裏切られたのは・・・俺・・・

ふつふつと身体の内側から、熱が帯びていく・・・
怒りという熱が・・・

灼熱の熱が胸の内にある・・

「俺に・・殺らせて下さい。・・」

静かなる闘志を・・怒りを内に秘め決意を言葉にして・・・



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Over Love act3-1

千葉県幕張市。
そこには、日本有数の大企業がビルを連ねる地区がある。
日本の新しいワールド絵センター街と称される程、世界に名立たる企業がいくつもあった。
企業向けの情報誌であ[プレジデント]にも掲載される程有名な地区だ。
その一角に一番大きく周りのビル達を寄せ付けない威圧感のビルが建っている。

東山コンツェルンの総本社とも言うべき東山コーポレーションのビルだ。
金融・食品・衣料・ホテル・医療・・あらゆる企業を傘下に持つ。

ただ他の大手大企業との一番の違いは・・・
裏の顔を持っているということだろうか?・・
会長自らが総帥を務めている、闇の組織【陽炎】という側面を秘密裏に持っている。
自分達にかかる火の粉を秘密裏に処理する。
暗殺・裏工作・脅迫・・・
あらゆる手段を使い行く手を阻む邪魔者達を消してきた。
その影の部分を大いに利用して東山グループ全体が栄えてきた。

世界にも名を轟かせる程の大企業に・・・

その会長兼社長である東山 総一郎は今年で67歳を迎えるが、人に威圧感を与える威厳と迫力は一向に衰えることなく、むしろ年齢を重ねる度にその深みは増している。

「・・久しぶりというべきか?・・・息子よ・・・」

アスファルト剥きだしの地下4階にある薄暗い部屋は、かろうじて必要最小限の灯りであるダウンライトが照らしだしていた。
部屋の広さは20畳ぐらいはあろうか?・・

部屋の奥に重厚なテーブルを前に深く腰掛けた総一郎が居た。
テーブルの上には、イタリア製灰皿が・・・そのうえでゆらゆらと葉牧の煙が立ち上っていく・・・

「お前たちには、何不自由なく与えてきた筈だ。・・何一つとして。」

重厚なテーブルを前に本革で出来たクッションの良い深い椅子に腰かけている。

「違うか?・・」

総一郎から深い渋みの声が部屋に響いた。

「・・・・っ・・」

別室にて自白剤を打たれている為か、魁には総一郎の言葉が、酷く遠くに聞こえていた。
自白剤の副作用が未だ切れておらず、意識が拡散しまだまともな受け答えはできそうにない。
「魁・・・お前の働きに、私は満足している。・・先日の山下の件も早々に片付けたそうだな?・・見事だ。・・無論お前だけではない。
皓にしても正当に私は評価してきたつもりだ。そしてその評価に見合うだけの、望むものすべてを与えてきた。それなりの地位もだ。・・・」

総一郎の表情は、黒づくめの男達二人に身動きがとれないように押さえつけられて、伺い知ることが出来ない。

「何故だ?・・・何故・・皓は私を裏切った?・・」

何か言いたくても舌が回り上手く喋る事さえ叶わない。
ただ魁は朦朧とする意識の中でかすかに首を振って見せた。
唯一の意思表示として・・・


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Over Love act2-3

『魁。現時点において、お前は拘束される。悪い事は言わない。・・逆らうなよ。・・』
電話の相手が何を考えて、そんなことを言ってくるのか・・・
忠告のつもりなのだろうか?・・
言葉には哀れみが含まれている・・・・

いつの間に来たのか・・いつから居たのか・・・
何故自分の場所が知られているのか・・きっと携帯か何かに自分の知らない間に何かしらセットされていたもので感知されていたのか・・・
黒いスーツに身を固めた男たちが、歩道橋の両端から歩いてくるのが見える。
『陽炎』の中でも総帥直属につく者達だ。
「誰が今更・・」
そう告げたで折りたたみ式の携帯を閉じオフにする。

「こらっ!!」

背後で突然声がして、振り返ると、そこには見覚えのない可愛い顔立ちをした小柄な人物が立っていた。
175cmの自分と比べると随分と小柄だ。智稀からすれば小学生にも見える。
甘く見てもせいぜい中学生ぐらだろうか?
その可愛らしい甘いマスクにとても似合っているカジュアルな服に身を包んだ人物が傘を差し出したまま凄んでいる・・・・・

「・・・・。」

・・・ように見えなくもない。

互いに見つめ合ったまま数分が過ぎたように思えた。
智稀は、無言のまま目の前の人物を嫌がおうでも見下ろした。

「今!何時だと思ってるんだ!?子供の出歩く時間帯じゃないだろう!?」
「・・・・。」(子供?・・・誰が?・・)

鼻息荒く告げてくる目の前の人物が、智稀にはどうしても自分より年下に見えてならない。

「傘!ほらっ貸してやるから、ちゃんと家に帰れっ!何があったかは知らないが、家族の人だって心配してるぞ!?それにだ!!こんな深夜にウロチョロしてんじゃない!!さっさと学生は早めに帰るんだ!いいな!?」

びしっ!!

人差し指で、びしっ!と言い終わると彼は自分の持っていた青い傘を強引に智稀に手渡した。
そして時計をチラリとみると慌てて走り去って行った。

「・・・・・。」

傘を強引に手渡された智稀は、去っていく人物の後ろ姿を見送る形となってしまった。
自分がつい先程通って来た道を、小さい背をした人物が走り去っていった。

(澄んだ瞳だ。・・人を疑う事を知らない真っ直ぐな・・俺を・・家出した奴と思ったんだろうな・・・)

「それは没収させて貰う。・・」

気配を殺し近寄って来た男達の中で、一歩前に進み歩み出る者がいた。
組織の人間で、下っ端は下っ端でも総帥に使える直属の配下だ。
彼等の言う事に従わなければ、総帥への反逆とみなされる。
その配下に、見知らぬ少年(?)に手渡された青い傘を手から奪うように取られた。

「それだけ濡れているのなら、必要ないだろう・・・総帥がお呼びだ。」
「・・・・。」

背後から歩けとでも言いたげに、背名を強く押された・・
智樹はさして驚きもせず、無言のまま男達に付き添われ歩き出していく。
腰に冷たい銃を押しあてられたままで・・・・



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Over Love  act2-2

グゥウン・・・グゥウン・・・
ジャケットの胸内ポケットに入れておいたマナーモードにされた携帯電話が、かすかに低い振動音を伝えていた。
内ポケットから取り出すし、誰かのらの着信かも見ずに、折りたたみの最新式の携帯電話を取り出し開き受話にした。
どうせ着信も非通知になっていたし、かかってくる電話の相手も簡単に想像がつく・・
携帯電話を開き受話をオンにしてからの数秒の沈黙。
それは決められた【組織】でのルール。
一番最初の電話でのやり取りは、互いの名は決して明かさない。それこそが、【組織】での相手を確認する為のルール。
『首尾は?・・』
挨拶も抜きに問いかけられる。
深みのあるよく響く声が、耳元に届く。『組織』の中でもNo2に君臨する人物であった。
「完了した。」
体温を感じさせない声音で答える。必要以上には語らずに・・・
『了解した。・・・ところで・・魁。』
本名である東山 智樹とは違う。自分が物心ついた頃より入れられた闇の組織『陽炎』の一員としての通り名を呼ばれ身構える。
電話をしている最中は、滅多なことでは名を呼ぶ事は禁止されていた。緊急時に用いる以外は・・・
そう・・名を呼ばれているという事は、逆に言えば何か重大な事が起きたという証拠だ。
一体何が起きたというのか?・・・それとも、また別の命が下されたのか・・・
『最近・・皓と連絡は?・・』
不意に投げかけられた言葉に魁は、ただ戸惑ってしまう。
「・・・別に・・」
皓という名は組織内での呼び名だ。智樹が魁と呼ばれるように、彼の実兄にあたる東山 秀一にも、皓という名が与えられていた。
両親を事故で亡くして以来、智樹にとっては、ただ唯一の血を分けた肉親である。
15年前・・両親を事故で亡くし、その先に行く宛てなどない。両親以外の血縁者を知らない幼き自分達を拾ってくれたのは、意外にも彼らの両親の勤め先の会社東山グループの総責任者だった。
日本の政治、経済界において影響力を及ぼす事の出来る人物・・
東山コンツェルンの会長を務める東山 総一郎であった。
その時から、智樹と秀一は東山 総一郎の養子となったのである。
一般家庭に育った彼らの日常も様変わりしたが、変化はそれだけでなかった。あくまでもでも東山コンツェルンという名は表向き。裏では闇の組織【陽炎】を束ねる総帥でもあったのだ。
そう・・その彼、東山総一郎が持つ表と裏の世界を通じてありとあらゆる事を2人は叩き込まれてきた。
政治・経済・語学・マナー・一般常識・薬学・殺人の事も・・・
逃げ出すことすら許されず自由さえも奪われて・・・
自分達の存在価値すら認めて貰えない時期もあったが・・今は違う。

皓は本格的に東山コンツェルンのブレーンとして働いている。無論【陽炎】の一員としても・・・
それゆえ多忙な兄とは全くと言っていいほど逢っていなかった。

『皓に最後に逢ったのはいつだ?・・』

耳元に囁かれる言葉には反応することが出来ない・・・
それぞれが与えられた課題や命を忠実にこなしていくだけの日々だ・・

組織から外れることなどあり得ない。

「まさか・・・」
『そのまさかだよ・・・皓が組織を裏切った。…』
電話の声の主である皓の次・・組織内においてもNo2とされる程の人物もどこか落胆の色を隠せないようだ。ため息交じりの声がさらに耳元へと届いた。
『今朝だ。・・組織内の内部データーを一部盗み、5人の情報部の者が殺られてる。』

沈黙が疑問にと変わっていく・・
若くして、力をつけコンツェルンの中でも【陽炎】の中でも幹部として働いていた程の人物である。
ゆくゆくは総帥の跡目候補にもあがった人物が・・・

(兄さんが・・裏切った?・・・)
込み上げてくるのは、怒りと哀しみに他ならない・・
固い約束を交わした日は一度たりとも忘れたことなどないのに・・・

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